 |
メディカルページで鍼灸を取り上げるのは、今回で2回目になります。前回は『「鍼灸」とはどんな治療法なのか』というテーマで、鍼灸治療の基本的な治療についてをうかがいました。
今回は、中国古来の鍼灸を、松川はり灸整骨院の院長、松川実先生に教えていただきました。 |

鍼灸とは、「鍼」と「灸」を使って人体のツボ(経穴)を刺激することにより、気や血の流れの障害を改善させ、健康な状態に戻す療法。現在日本で行なわれている鍼灸と中国鍼との大きな違いを一言で言うと「治療に使う鍼の違い」だという。なるほど、見せていただいた中国鍼は大きくて長く、太さもある。前回の取材で「鍼はけっして痛いものではない」との認識をもったが、この中国の鍼であれば、やはり痛いのでは…?「そうですね。刺激はそれなりにありますから、痛くないとは言えません」と松川先生。「ただ、中国鍼は、つらい『痛み』をもつ患者さんには効果がありますよ。」
松川先生の場合あちこちの治療院へ行き、さまざまな治療法を試してみたけどどうしても痛みがとれない、という患者さんに対して中国鍼を施す。
先生は、開業する以前、神山にある函館脳神経外科病院のリハビリテーション科に勤務していた。脳外科のリハビリテーションには理学療法、作業療法、言語療法に物理療法などがあるが、同病院ではそのリハビリの一環として中国鍼による治療を行なっていた。この取り組みは全国でも稀なケースで、当時、北海道新聞にも新しい事例として取り上げられたという。
実際、脳血管障害で発生した「手が動かない、しびれる」、「足が動かない」、「口が動かない、のみこめない」などの麻痺に対して、中国鍼を施術した治療効果の報告書を見せてもらったが、およそ7割前後の方が改善の方向へ向かっているのがわかる。もちろん、治療を施した患者の健康状態や抵抗力などの個人差により効果の過程に違いはあるが、麻痺の改善、意識障害の改善、痛みやしびれに対する効果があるという。
|

留学先の中国で施術中の松川先生(写真上)
認定書と中国針(写真右) |
松川先生は、同病院に勤務している際、当時の西谷院長先生の勧めもあり、中国鍼を学ぶために、3カ月半ほど中国へ留学した経験を持つ。留学先は中国人民解放軍海軍総合病院。
ベット数700床、職員数約1,300名、30の診療科目を持ち、ホテル並みの外国人専用病棟も併設している規模の大きな総合病院である。鍼灸の技術を見学するために日本人がくることはあっても、留学することは珍しいそうだ。松川先生は、その留学先に日本の鍼を持っていたところ「日本の鍼は刺激量が少なく、ツボが深い位置にある場合、そこには届かない」と指摘を受けたそうだ。中国鍼を使った治療についてをうかがっていると「響き」という言葉がでてくる。中国古来の鍼の場合、ツボの微妙な深さをみながら鍼を差し込んでいくという方法らしい。治療を受けている側は、鍼がツボにあたった時、その感覚として、痛さとは違うずんと重くなっていく感覚があるのだそうだ。そのことを「響き」と表現している。日本の鍼にも手技として「響き」があるそうだが、中国鍼とはその度合いが違うのだという。その刺激が大きな効果を生むのだろう。
 |
|

「日本の場合ですと、鍼灸治療はたとえば、肩こりや腰痛、膝が痛いなどの痛みに対する治療としか考えられていないことが多いですね。中国では違いますよ。約7割が内科的疾患で鍼灸治療を受けるんです。鍼灸治療が身近だというお国柄もあるでしょうが、不妊治療に始まり、逆子の赤ちゃんの矯正や、生まれてからは夜鳴きを直すことにも。更年期障害や耳鳴りなど、身体のあらゆる部分に鍼灸は適応できますよ」と松川先生。
留学先で伝統の東洋医学に触れた松川先生が、帰国後不思議に思ったという興味深いエピソードがある。それはツボの位置が日本と中国では微妙に違っているという点だった。帰国後も現地で購入した専門書で勉強を続けていく中でその疑問は深まり、2000年に韓国ソウルで開かれた世界鍼灸学術大会に参加した先生はやはり違っていることを再確認。約二千年前に中国で生まれ、各国にその技術が引き継がれていく中で、361カ所あるツボのうち、92カ所ものツボの位置が日中韓で食い違っていたことが、3年前に判明したという。その後、専門家が古い文献を検証し、会議を重ねた上、今年(2007年)に開かれた世界保険機関(W・H・O)の国際会議で統一されたのだそうだ。もちろん統一されたからといって日本の鍼灸治療に反映されたとは限らない。開業されている治療院個別の考え方によるようだ。松川先生の場合は、中国古来のツボに基づいている。
「東洋医学では、人間の身体は頭の先から足の爪先まで、それぞれが独立した器官ではなく、一定の法則の下にバランスを保って互いに関係し助け合っていると考えています。陰陽五行の法則です。自然界で言えば、天が陽、地が陰、太陽が陽で月が陰、南が陽で北が陰。身体の構造でみると外側にある筋肉が陽で内部の臓器が陰です。そんなふうにすべ
てのものが陰陽に分けられ、この陰陽の相互のバランスがうまくいって、順調にいくのです。身体についても、頭は陽で、足は陰。脳からの命令を受けなければ、手足は動かず、また手足に伝えられた感覚は脳に正しく伝わらなければ、健康とは言えません。手や足が冷えているのに、頭がほてったりしているのは、全身のバランスが崩れている状態。そうした時に、陽を刺激し(鍼・灸)陰の機能を発揮させてやる。これが身体の持っている自然治癒力の原理にかなった治療方法なんですよ。」(松川先生)
|
|

取材前に、中国鍼について少し調べてみたところ「美容・ダイエット」などに注目されていることがわかった。そのことについて、先生に訊ねてみたら「あります。中国では耳鍼の治療がすごく発達しているんですよ」と、耳のツボ模型を見せてくれた。無数のツボの点が示されている実に興味深いものだ。
「最近広告などで目にする“耳ツボダイエット”などは、実際に鍼を施すものではないことが多いようです。鍼治療は国家資格を持っていなければできませんからね。ただ、そういった紛らわしい治療で『効果がなかったんです』と来院される患者さんには、耳鍼での治療を行なっています。このツボの点、ひとつひとつにはすべて役割がありますから、正しく理解している鍼灸師にやってもらわなければ意味がないんです」と先生。
|
 |
| 耳つぼ説明書(写真上)と耳つぼ模型(写真右) |
|
| 先生に見せていただいた治療効果の報告書に、それを示す言葉として、著効、有効、無効、増悪の文字があった。聞きなれない「著効」について質問してみたところ、治療後、著明に効果が見られた場合を示すのだという。前述したが、効果については個人差がある。同じ症状でも10日で改善される人もいれば1カ月以上もかかる人もいる。また、日本の鍼に慣れている人にとって中国鍼は、多少なりとも刺激の強い治療ということになるのかもしれない。良薬は口に苦し、だ。それでも時間をかけて治療を続けていくうちに「手の感覚をまったく失ったが、少しづつ感覚を取り戻してきた」という事例を聞くと東洋医学の持つ奥深さ、そして自然治癒力を引き出すという根底の考えに深く感じ入る取材だった。 |
|
 |
●PROFILE |
松 川 実 氏 <松川はり灸整骨院 院長>
|
| 北海道柔道整復専門学校 卒業/北海道鍼灸専門学校 卒業/(社)北海道柔道整復師会 会員/(社)北海道鍼灸師会 会員/北京・海軍総合病院へ留学し中国鍼治療士の修了書を取得/日本鍼灸師会婦人科疾患専門領域認定鍼灸師/1998年松川はり灸整骨院開院 |
松川はり灸整骨院
函館市本通2丁目6番23号 TEL 0138-55-1555 |
|