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「函館中央病院整形外科で、コンピューターの助けを借りる手術を行っているそうなので、その取材をしていただきます」。
・・・記者が事前に聞いていたのはこれだけ。読者の皆さんもきっと同じだと思うが、コンピューターを使った手術と言われても何のことやらさっぱりイメージできなかった。そんな疑問を打ち消すかのように告げられたのは、「手術室に入ってもらって実際の手術を見学してもらいます」との言葉。「百聞は一見にしかず」とは言うものの、実は私、血が苦手である。 自分の血が採血されているのを見ただけで気分が悪くなるほどだ。
「手術の途中で気持ち悪くなったらどうしよう」と思いつつ、「めったにない機会だし」と思い直して当日の取材に臨んだ。 |

何となく外科の先生ということで職人肌の人物像をイメージしていたが、実際にお話を聞かせてくれた整形外科の山崎修司先生は、見るからに優しそうな感じ。直後に自らがメスを握る手術を控えているにもかかわらず、とても落ち着いた様子が印象的だった。さっそく今日の手術についてお話をうかがった。
この日行われるのは、膝の人工関節置換手術。わかりやすく言うと、老化やリウマチなどの病気によって軟骨が磨り減ってしまい歩行などに困難をきたしている状態の骨を削り取り、替わりに人工関節を入れる手術だ。
人工関節を入れるためには骨を削らなければならないが、この際にどんな角度で削るかが大きなポイントだという。骨に対して直角に削ればいいように思うが、それでは全体の重心から大きくずれてしまう。手術後にスムーズに歩けるようになるためには、骨に対してでなく股関節から足関節に引いた重心線に対して直角に削らなければならない。ところが、当然のことながら股関節の中心がどこにあるかは外からは見えない。そこで従来は経験則的に大腿骨の中心に対して7°外側に傾けて削るのが良いとされていた。ただし、骨格の傾きなどは人それぞれ異なっており、一律に7°外側に傾ければ良いというものでもない。このため、実際の手術においては執刀医の経験や手の感覚によって削る角度が決められていた。脛骨(けいこつ・すねの骨)についても同様のことが言える。
「もちろん、だからといって問題が生じているわけではない」と山崎先生は言う。人工関節置換手術は日本中どこででも数多く行われている一般的な手術であり、成績も安定した非常に良い治療法として確立している。だが、函館中央病院がこのほど導入したのは、コンピューターを用いてこの手術に"より正確さ"をもたらす手法だ。一般的に「コンピューター支援手術」と呼ぶ。
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■モニター画面がついたオートパイロットナビゲーションシステム |
用いられるのは、「オーソパイロットナビゲーションシステム」という機器。小型冷蔵庫くらいの箱の上にパソコンの画面が付いており、その上にはアンテナが立っている。ドイツ製で、2006年に厚生労働省の認可を受けたばかり。全国でもまだ10ヶ所程度の病院にしか導入されていない。北海道では今のところ函館中央病院と札幌市のNTT病院の2ヶ所だけだ(2007年10月現在)。

実際の手術においては、患者の大腿骨の中央と脛骨の中央に金属製のアンテナを立てる。このアンテナから発信された電波を、アンテナが受信。その情報を元にコンピューターは骨の向きなどを立体的にとらえ、切る道具の向きや高さを画像で執刀医に指示する。これにより、勘に頼らずとも適切な位置で骨を削ることが可能になるのだという。さらに、関節は曲げ伸ばしする個所であるため手術時にはじん帯の伸ばし加減も考慮しなければならないが、これもコンピューターが膝の安定に必要な緊張を考慮して、すべての角度で安定するように骨を切る量を指示してくれる。従来、この作業は全く執刀医の手加減に頼って行われていた。この機器の使用により、従来は3〜4人の医師が手術に必要だったが、それが2名で足りるとのことだ。
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一通り説明を聞いた後、さっそく手術室に入るための衣服に着替えて、いざ手術室へ。
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すでに全身麻酔のかかっている患者さんの左足が消毒され、さっそく膝の部分にメスが入る。が、電気メスが使われているためか、予想に反して血はほとんど流れない。切開されて膝の関節があらわになっても、不思議と気持ち悪さはなかった。 さて、患者さんの左足は曲げられ、大腿骨と脛骨に金属製のアンテナが取り付けられた。次に山崎先生は「オーソパイロットナビゲーションシステム」とコードでつながっている大きな針のようなものを手にし、その先端で患者の足のさまざまな部分に触れていく。これは、コンピューターの指示に従って患者の足の骨のポイントを入力する作業なのだという。ここで入力された情報と、足に取り付けられたアンテナからの情報により、コンピューターは患者の骨やじん帯の様子を正確に判断することができるわけだ。
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■手術中の手術室の様子 |
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入力が終わると、いよいよ関節を削り取る作業だ。ここでコンピューターがその性能を発揮し、その患者にとってもっとも適切な切除角度を指示する。この指示はパソコンの画面に画像で表示されるため、山崎先生は手術部位と画面を両方見ながら、手術道具をわずかずつ動かしていく。コンピューターが「この角度でピッタリ」という指示を出したら、後は早い。まるで大工仕事のように手際よく骨が削り取られていく。
上下両方の関節部分がきれいに切除されたら、それぞれに金属製の人工関節が取り付けられる。聞くと、上(大腿骨側)に取り付けられる人工関節はコバルトクローム製、下(脛骨側)のそれはチタン製とのこと。なかなか高級そうな金属だ。骨の削り取った面に骨セメントが塗られ、そこに人工関節が押し当てられる。特にボルトなどで止めるわけではない。こうして関節の上下にそれぞれ人工関節が取り付けられたら、両者のすき間に摩擦軽減用のスペーサーと呼ばれる高分子ポリエチレンという材質でできた部品を挿入し、後は傷口を縫って手術完了。この間、約1時間半。立ちっぱなしで少し疲れたものの、気分も悪くならず変な緊張感も感じず、ほっとしたのが正直な感想である。

■手術後の患部 |

■人工関節 |
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手術後、あらためて山崎先生にこの「オーソパイロットナビゲーションシステム」を用いたコンピューター支援による人工関節置換手術は患者にとってどんなメリットがあるのかをお聞きした。
端的に言うと、「傷が小さくて済むこと」だという。専門用語で言うとこの手法は最小侵襲手術(MIS ミニマム・インベーシブ・サージャリー)ということになる。 先ほど書いたとおり、人工関節を入れるために骨をどの角度で削るかは、本来は人が立った状態で股関節から地面に向かって垂直に下ろした線との角度によって判断される。だが、股関節を外から把握するのは不可能であるため、従来は実際には膝の周囲の骨の向きなどによって判断されていた。 |

■手術後のレントゲン写真 |
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「従来はその患者さんの骨の傾きなどを判断するために膝を大きく切って実際に骨を目で見なければなりませんでした。おおよそ15〜18cmほど切ります。小さく切って正確な手術を行うのは膝関節外科に熟達した名人なら可能ですが、一般的には限界があるのも事実です。そこでコンピューターの助けを借りて、小さく切開しても正確な角度で骨を削ることを可能にしたということです」と山崎先生。コンピューターが股関節の位置や骨の傾き・向きなどを教えてくれるため、医師が骨を自分の目で見るために大きく切り開く必要がなくなったというわけだ。
事実、今回の手術の傷跡を実際に計測してみたところ、約7cm。従来の半分以下の傷で手術を終えたことがわかる。「傷の小ささ」が患者にもたらす影響を山崎先生はこう説明する。
「傷が小さいということは痛みも小さいということ。つまりはリハビリが早く進みます。手術後1週間くらいでみんな歩いていますよ。手術後3日くらいでも歩くのは可能です」。
傷が小さくて済むことのほかにも、コンピューター支援手術は後々良い影響をもたらすという。「股関節から下に向けて引いた重心線に対して正確な人工関節の設置が可能になり、より適切な靭帯のバランスも獲得できるようになったため、手術後の歩きやすさや人工関節の耐久性にも良い影響を与えます」。
山崎先生によると、人工関節置換手術を受けるのはほとんどが老化に伴って歩くのが困難になったお年寄り。まともに足を地面に着くこともできないくらい痛がっていた患者さんが手術後元気に歩き、「こんなことなら我慢しないでもっと早くに手術を受ければ良かった」と言っているという。 |
函館中央病院では「オーソパイロットナビゲーションシステム」を用いたコンピューター支援手術を2007年の5月から始めており、すでに数多くの手術例がある。また、生まれつきの病気やケガにより骨が曲がったり、短くなってしまった患者の変形を治す手術の際にも、骨に取り付けた機械をコンピューターの指示に従って操作し正確な矯正を行う技術を導入している。いずれの治療法も山崎先生がアメリカやドイツで学んで来た最先端医療だ。
「骨が変形したり、膝の軟骨が磨り減ったりして歩行や日常生活に困難をきたしてお困りの方は、ぜひ当院整形外科外来にお気軽にご相談ください」と整形外科山崎修司先生は呼びかけている。 |
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●PROFILE |
山 崎 修 司 氏 <函館中央病院 整形外科 医長>
Shuji Yamazaki 1963.6.12生まれ
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●北海道大学医学部 平成3年卒業
平成15年 医学博士号取得(北海道大学)
平成15年〜平成18年 文部科学教官北海道大学医学部助手
平成18年〜19年 米国 Maryland州International Center for Limb Lengthening 留学
平成18年〜 Editorial Review Board of “Foot & Ankle International”
平成19年〜 北海道大学客員臨床講師
<専門分野>
下肢の関節外科、小児整形外科
創外固定器による難治性骨折治療・四肢変形矯正・骨欠損再建 |
社会福祉法人 函館厚生院 函館中央病院
函館市本町33番2号 TEL 0138-52-1231
■休診日 日曜・祝日・年末年始(12/30-1/4)・開院記念日(6月第1水曜) |
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