特集24 全国的にも注目を集めている…患者と職員のコミュニケーションにも効果的な、入院生活を快適にする『ベッドサイドシステム』

toku_081031_takahashi_doc社会医療法人 高橋病院 高橋 肇 理事長
函館市元町32番18号 TEL 0138-23-7221
https://www.takahashi-group.jp/

toku_081031_takahashi_01日中は絶えず観光客が行き来する元町にある高橋病院では、2年半前から入院患者を対象に『ベッドサイドシステム』という新システムを導入して好評を博しているという。国内でも先駆的な取組みのため、今も週に2,3件は各地の医療施設からの見学が訪れているとのこと。そこで、各方面から注目を集める『ベッドサイドシステム』とはどんなものなのかを高橋肇理事長に聞いた。


「メディカルページ平成20年度版」(平成20年10月31日発行)の冊子に掲載された記事です。※院名や役職、また内容についても取材時のまま表記しています。

 

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■高橋肇 理事長

まずベッドサイドシステムの概要を教えてください。

ひとつのベッドに1台ずつ薄型のテレビモニターが備え付けられています。ロングアーム・タッチパネル式のため、場面に応じ利用される方の目の前に近づけることができ、画面をタッチするだけの簡単な操作で様々な情報の利用ができます。
テレビは地デジ対応で普通に番組を見ることができますが、このほかに病院スタッフが登場することもある専用チャンネルが3チャンネルあり、これが大きな特徴です。

入院患者さん全員に備え付けられているんですか?

2006年2月から導入しておりますが、179床の入院患者さんのうち、一般病棟と回復期リハビリテーション病棟の119床に備え付けられております。
利用料金は、テレビ、診療情報をはじめとした各種の情報閲覧、インターネットの利用のほか、個別に備え付けられた冷蔵庫・金庫の使用料、および共同の洗濯機と乾燥機の使い放題料金も込みで1日500円です。入院の際に内容をご説明し同意をいただいております。

病院専用のチャンネルがあるとのことですが、どんな内容なんですか?

まず、高橋病院の施設や職員などについて案内する「インフォメーション系」、治療を受けている自分自身の状態について把握することができる「診療支援系」、そして入院していて暇になった時に楽しんでいただける「エンターテイメント系」の大きく分けて3つの分野があります。
toku_081031_takahashi_03入院している患者さんには高齢の方も多いので、リモコンを色分けしてわかりやすくしたり、画面をタッチすることで簡単に情報にたどりつける「タッチパネル」を採用したりという工夫もしています。さらに患者さんひとりひとりのベッドにスタッフが出向いて使い方のご説明もさせていただいています。

「インフォメーション系」のチャンネルでは病院のどんな情報が得られるのですか?

入院している方が迷わないように、まず施設内案内図ですね。そして「入院のしおり」。もちろん入院する際に必要事項をご説明していますが、新規入院時にはいろいろな説明が重なって覚えきれないと思いますので、このチャンネルでいつでも入院生活の案内が見られるようにしています。
さらに、医師や看護師など職員ひとりひとりの名前と写真を掲載している「職員紹介」のページもあります。患者さんが「今日来た看護師さんは誰かな」などと後から調べることも可能です。それから、今週の献立表一覧と栄養士からの情報。献立に選択メニューが取り入れられている場合にはここで写真を見て自分の食べたいメニューを決めることもできます。

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■実際に設置された「ベッドサイドシステム」

入院生活を快適にするような取組みもあるそうですね。

このシステムを使って、入院生活に関するアンケートを実施しています。タッチパネルの画面に触れるだけで回答できるため、紙に書いて提出するより負担が少なくて済むとの声をいただいています。集計もコンピューターで自動的に行えるため、患者さんの声を素早く反映させるのに役立っています。
10月からはテレビ画面で買いたいものを選択できるネットショッピング方式のカタログ販売も始めます。入院に必要な生活用品はもちろんですが、地元の書店の協力を得て本の販売にも取り組む予定です。
toku_081031_takahashi_05ただしテレビを通したやり取りだけでなく、「ひまわりサービス」という当院独自のコンシェルジュ(相談受付係)の手を介して直接患者さんと顔を合わせ言葉を交わすというひと手間を取り入れています。当院には以前年間40~50件の投書があり、そのほとんどは不満を訴えるものでしたが、「ひまわりサービス」を創設して以降はその件数が激減しました。自分の話を聞いて欲しいという患者さんの願望がかなえられた結果が目に見える形で現れていると思います。

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■システムの説明をする高橋理事長

次に、「診療支援系」のチャンネルではどんな情報が得られるのか教えて下さい。

このチャンネルでは、患者さんが自分の電子カルテの一部の情報をいつでも見ることができます。閲覧に当たっては本人確認がなされるため、個人情報は保護されます。
電子カルテの情報で患者さん自身がチェックできるのは、体温・脈拍・血圧といった毎日の基礎データや検査値のほか、食事の種類や摂取しているカロリー値、投与された薬や注射などの名称と種類・量などです。薬については写真と説明文が画面に表示されるため、自分が飲んでいる薬の内容をいつでも自分のベッドから確認できるようになっています。
また、何日の何時から検査やリハビリがあるかなど、治療やリハビリの予定も表示され、自分のスケジュールを確認することができます。 私達病院側としても、電子カルテの最新の指示内容をベッドサイドで確認できますし、注射や点滴を行う際は、ベッドサイドシステムの「安全確認」機能で、いつ誰が誰に何を投与するか、バーコードによる3点認証を行い安全・確実に実施しております。

「診療支援」チャンネルで特に力を入れて取り組んでいることがあるそうですが。

入院患者さんの転倒・転落事故を防止するための情報提供に病院を挙げて取り組んでいます。具体的には転倒・転落事故を防止するための動き方のビデオを自主制作しており、ベッドからの安全な起き上がり方や歩行の仕方、トイレでの安全な動き方などを実演動画で患者の皆さんにご覧いただいています。
toku_081031_takahashi_07医療事故の多くは医療者が気を付ければ減らしていくことができますが、転倒・転落事故は患者さんが自分の意思で動いて起こることが多く、残念ながら、なかなか減らせないという実態があります。そこで当院では、患者さんひとりひとりの病状や、事故のリスクを高める薬が投与されていないかなどを患者さんや家族とともにベッドサイドモニターを利用してタッチパネルでチェックしています。この情報から各病棟では転倒・転落の危険度が高い患者さんを事前に把握することができます。
こうしてひとりひとりの患者さんの事故リスクを把握し、その患者さんに合った実践ビデオを配信してベッドサイドで閲覧していただくことで、患者さん自身に転倒・転落予防への参加意識を持っていただくようにしております。現在ビデオは64パターン制作されています。
転倒・転落事故は全国的に見ても減少してはいませんし、病院で起こる事故の中では後遺症が残ったり死に至る数も多いものです。ですから、リハビリ病院である当院としてはこうした事故の件数を減らすことで世の中に貢献したいと思っています。


ベッドサイドシステムについてひと通り話を聞いた後、高橋理事長は現在試験中だという睡眠改善のための新しい機器を見せてくれた。まだ商品化されていないもので、メーカーに協力する形で実際に病院で使用し、データを集めているとのこと。これも実用化されれば睡眠時の転落事故を防止するのに役立つはずだという。

高橋病院は規模的に言って「大病院」ではないが、理事長はむしろそのことを生かしていきたいという。
「大病院ではなかなか取り組めないことでも、小回りが利くからこそ当院で取り組んでいけることがあります。産学官連携のフィールドを提供し、利用者に安心と満足を提供することが私たちのテーマです。サービス産業として、患者さんのニーズを『忙しい』などと切り捨てずにひとつひとつ答えていきたいと考えています。」
入院生活を快適にするための『ベッドサイドシステム』は一見するとコンピューターでなんでもやってしまおうというものに見えるが、実際には病院や職員がより一層ひとりひとりの患者と接していこうとする手段のひとつであると言えるだろう。

社会医療法人 高橋病院
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■休診日 日曜・祝日・12月30日~1月3日・7月13日(午前のみの診療)・8月13日
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