夜中に何度もトイレに行く悩みを解消-内服薬と生活指導、行動療法で治療する「夜間頻尿外来」

● 医療法人たんだ泌尿器科 理事長 田崎 雅敬 先生

何度もトイレに行きたくなる頻尿。特に夜間の頻尿は、泌尿器科を受診する人の多くが訴える悩みです。内服薬だけでなく、生活指導と行動療法による治療を行う「夜間頻尿外来」は、医療法人たんだ泌尿器科理事長の田崎雅敬先生が長年取り組んでいる専門外来です。「夜間頻尿外来」について、前任の美原腎泌尿器科院長在職時に田崎先生からお伺いした記事(メディカルページ函館平成26年度改訂版)に今回、補足追記をお願いしました。

 

泌尿器科の外来診療について教えてください。

泌尿器科を初診で訪れる患者さんは、夜間の頻尿が困るという主訴で来られる方が6割から8割を占めます。いくつかの症状が複合していることも多いのですが、患者さんが一番困っていらっしゃるのは夜間の頻尿です。

頻尿は急に強い尿意が襲ってくる過活動膀胱や、排尿後に残尿が多く残る前立腺肥大症や神経因性膀胱、日中の尿量が減少し夜間や早朝の尿量が増える夜間多尿症などにより引き起こされますが、それぞれの原因は多彩であり、さらに夜間頻尿に関しては、それら多くの要因がいくつも重なって起きることがあるため症候群と言うべきなのかもしれません。それゆえ同じ夜間頻尿でも治療法は異なり、問診やいくつかの検査により原因を探り出し、それぞれの人に合った内服薬や生活指導、行動療法を行うのが泌尿器科の仕事であると言えます。

先生が夜間頻尿を手掛けられたきっかけを教えてください。

市立旭川病院時代に勤務していた時の医局研究会がきっかけでした。

次の研究会の発表円台が決まらずにいました。どうせやるならば診療の場でもいかすことのできる研究がしたい。せっかくなので今自分が困っている問題を解消したい。

その時僕が日々の診療で困っていたのが夜間頻尿でした。この時はまだ夜間頻尿診療ガイドラインもありませんでした。研究発表まであまり時間がありません。すぐさま夜間頻尿の検討に取りかかりました。

当時、夜間頻尿について掲載している雑誌は精神科の専門誌くらいで、それも睡眠との関わりという形で紹介されていました。国内での夜間頻尿に関する文献はわずか十数編。そこで市立旭川図書館の係員にお願いして国外の文献も探し出してもらい最終的には200編近い文献を集めることができました。そして、全て文献に目を通して見えてきたのは、夜間頻尿は過活動膀胱のような知覚過敏よりも夜間の尿量が多くなる状態、夜間多尿が主な要因である可能性。

夜間の尿量が多いのであれば、それを解消すればいいわけですね。

そうです。寝ている間の尿量を減らすことが夜間頻尿治療の根本になります。治療法のひとつは、サードスペースといって主に下半身に溜まっている余分な水分、むくみと言ってもよいと思いますが、それを夕方に利尿剤を飲むことで寝るまでの間に強制的に尿として出してしまい、夜間帯の尿を減らす方法です。

あるいは、若い人は夜間帯に脳下垂体から抗利尿ホルモンが分泌されることで夜間帯の尿が濃縮され尿量が少なくなる仕組みがあるのですが、抗利尿ホルモンの分泌は加齢によって低下してゆきます。そして夜間の尿量が増えてしまうのですが、就寝前に抗利尿ホルモンの薬を補充することで夜間尿量を少なくする方法もあります。

夜間多尿症は就寝前に利尿薬で出し切るか、就寝後に抗利尿薬で抑える、これが治療の主導権を握ると考えました。あとは病態分類のための基準値や治療方法の適応について整理してゆきました。

夜間頻尿の7割は夜間多尿が原因であることも分かりました。ただ複数の要因がオーバーラップしていることも判明しました。膀胱が敏感になり十分な尿量が貯まる前にトイレをもよおして目が覚めてしまう過活動膀胱の方では、夜の尿量を減らすだけでは排尿回数は0回にならないこともあります。

美原腎泌尿器科での検証では、全体の7割は夜間多尿でしたが、過活動膀胱を含めた下部尿路疾患や1日に4リットル以上も排尿する全日多尿のケースも見られ、またそれらの病態がいくつか重複している症例もありました。

それぞれの治療法は異なるのですか。

病態毎に治療方法は異なるため、夜間多尿、下部尿路疾患、全日多尿のいずれの状態であるのかを見極めることが重要になってきます。またそれらがどれくらいの割合で重なっているかは、詳細な問診と患者さんご自身に記入してもらう「「排尿日記」」で割り出します。

僕は最近の外来診療では、夜中にトイレに行った時の1回の排尿量が昼間と比べて少ないか、あるいは同じくらい、昼間より多いか聞くようにしています。

この問診により「排尿日記」の記録を分析するのに遜色ない程度に病態のふるいわけができるようになりました。

そして病態毎に投薬による基本治療を行うことになりますが、投薬の他に補助的な治療として下半身に水がたまってむくんでいる様な人には、むくみを取る靴下(弾性ストッキング)をはいてもらう。これでサードスペースにたまっていた水がたまらなくなり、夜のおしっこを1回分くらいは減らすことができます。

下肢の筋肉運動によってもサードスペースにたまりにくくなりますから、日々の運動も効果的です。ご高齢の方にはなかなか難しいことですが、例えば家の中で足踏みをしたり、座るときに座布団を利用して足をお尻より少し高くするだけでも効果が得られます。

さらに塩分制限も効果的です。夜間多尿の人では塩分排泄が著しく低下している人も多く、そのような方では塩分摂取を減らすことで夜間尿量が減少することも知られています。

生活習慣から改善することも可能なのですね。

生活習慣による改善は十分可能です。それと合わせて行動療法ですね。

これは排出障害や畜尿障害など下部尿路障害で非常に高い治療効果が得られます。全日多尿では、飲水量を抑えることも行動療法になります。

これまでに患者さんから1,000件を超えるデータを集めました。「排尿日記」は、つける患者さんも分析する医師も大変苦労をするので、これをどう簡略化できるかが今後の僕の課題です。現時点において夜間多尿診療は、幅広く普及している状況にはなく専門の域を脱してはおりません。今後夜間頻尿の分析がより迅速に正確に簡便に出来るような方法が確立すれば、プライマリ・ケアとしての位置づけも安定してくると思います。

(2020年7月21日改定)


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